黒沢監督とは一度お仕事をしてみたかったので、お話をいただいたときにはうれしかったですね。カンヌ映画祭受賞は、思わぬご褒美で身が引き締まる思いです。舞台は、東京で線路沿いの小さなマイホームで暮らす4人の家族の物語です。香川照之さん演じる父親は息子がピアノを弾くのに反対するけれど、どうしてだめなのか、自分でもわからないという設定。自分がリストラされても家族に言わない。なぜ、父の権威を守らなくてはいけないのか、父自身もわからない。母親も息子も知っていても言わないほうがいいとわかっているから言わない。家族の中で裏切ったり、ウソをついたり、不穏な空気が流れているんです。
でも現場は、黒沢監督の魔法にかかったようで、いるだけで幸せな家族でした。家族が食事をしているところなんかはたいした会話もなく、ありふれた風景のように見えます。それぞれがいろいろなことを思っても、黙っていたり、まったく違うことを言う。ちょっとウラハラな感じです。監督は私たちが黙々と食べている中で、どこまでその空気感を出せるかが挑戦だったとおっしゃっています。
人は目の前にいる人によって、また状況によって、口調もかもしだすものも変わってきます。夫が目の前にいると妻の顔、長男といるときは、相性がいいのか楽しそう。二男とはお母さんの顔、強盗といるときは女の顔。あのリビングを目の前にしていると、あの家族だけれど、ちゃぶ台があったら違う家族になっていますよね。
息子役の2人がみるみる俳優になっていくのはうれしかったですね。日々、子どもが演技をすることが楽しいと感じているのを母の目で見られるんです。それをお父さんの香川さんに報告して、2人で涙ぐんでました(笑)。
私は、ドーナツを作ってもいつも食べてもらえないお母さん役だけれど、家族の要。息子たちは父親は許さないけれど、母親には本心を言う。母親は自分を犠牲にして、我慢しているように見えるけれど、実は「自分は1人しかいない」と思っています。そんな彼女が日常から逃げ、強盗に連れられて遠くにある光のようなものを目指します。でもそこに行ったけれど、何もなかった。この世界の中で、たった1人、孤独だと感じた瞬間、涙を流すんです。その後彼女は再び立ち上がって、家族のもとへと帰っていきます。
バラバラになった家族がクライマックスでひとつの旋律に変わり、ラストで二男がピアノを弾き始めたときの感動は、素晴らしい。人は理屈を超え、軽々と乗り越えていくものがあるというメッセージが心に伝わってきました。
映画を観た後、生きていることに対して、これでいいのかと考えさせられ、教えられた気がして、これから先、心して生きなきゃと思いました。ぜひ、みなさんもご覧になってください。
【TOPページへ戻る】 |