物語はワケあり親子の、何もしない夏休み。会社を辞めたばかりの僕は、ふだんあまり会うことのない父に誘われ、シベリアンハスキーのミロと北軽井沢の別荘に向かう。別荘といってもそんな豪華なものではなく、携帯の電波も入らない、山奥の山荘という設定です。
真夏に仕事で避暑地に行けるのがよかった(冗談だとして)し、原作の魅力である、淡々とした描かれ方のなかにせつない心情の流れが良かったです。
嬬恋の山荘を包み込む、あの雰囲気にだんだん馴染んでいきました。1番大事なのは、そこに住んでいるという空気感。ジメジメとして虫も出たけれど、涼しくて快適。スタッフ20〜30人がジャージーを着て、山の中で暮らしているのはおかしかったけれど、一緒のタイミングでご飯を食べて、台風も来るなど、苛酷な状況のなかで、楽しくできたのは、奇跡でした。監督は、クランクイン前日に「どんなに時間がなくても、みんなで毎日湯舟につかりましょう」と訓示したんです。監督は僕とそんなに年は違わないけれど、そこに住み、生活をすること。その積み重ねを大事にしている。チームを愛して、作品を愛し、映画を愛している、チームのお父さんみたいな感じでした。
最初、監督から無理に説明しなくてもいい、あざとくならないように、演技を抑えてと言われ、だいじょうぶかなという思いがあったんですが、しだいに大船に乗ったような気になりました。心情や表情を飲み込む、そんな演技が多かったような気がします。
父親役の鮎川さんは、演技の経験はそんなにお持ちじゃないけれど、表現する活動を第一線でやってらっしゃる存在感がありました。鮎川さんは、監督のオーダーを飲み込んで、間として成立させる何かがあります。自分の演技に対して、言い訳せず、1日1回のテイクを楽しんでらっしゃる。鮎川さんの背中を見ていて、年を経てもこんなにかっこ良くなれるんだと、一緒にいて誇らしく、こういう大人になりたいと思いました。
父と子、この2人は向き合うときには、ちょっと視線をずらす。父に対して言葉を選び、言いたいことは言わないし、遠慮をしている感じがある。裏には尊敬と思いやりがあって、大好きなんですけどね。言葉にしたり、行動に起こす前をていねいに描き、「言おうとしたけど結局いわなかったこと」の飲み込み方がリアルだと思うし、「やりたいんだけど結局やらなかったこと」の比重が増えて、味わい深い作品になったと思います。その余韻を楽しんでいただければと思います。
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